「走る」ことについて知っていると少しだけ得をするランニング豆知識
人間は、文化的な生活をする以前の原始的な社会では、移動の手段として自分自身の脚を使い、さらに食料を得るために行っていた狩りでは、他の動物よりも長い距離を走ることができることが出来たため、その持久力を活かして集団で獲物を時間をかけて追い回し、疲弊させてから獲物を仕留めていたといわれます。そのため長い距離を走るという行為は、人間に備わっている基礎的な機能といえます。
しかし、文明が高度化していく過程で、走って移動するという場面は減少してきており、現代社会において日常生活で積極的に走る場面はほとんどなくなり、競技や趣味としてのスポーツを通して、あえて走るようになりました。これらの手段を通して走ることを生活習慣に取り入れることは、体力の増進や健康維持につながり、日々の生活にも良い影響をもたらしてくれます。
走る動作について
「走る」とは、前に移動するための推進力を得るために、左右交互に地面に接地し進んでいく過程で、両足が地面から離れて空中にいる瞬間がある動作のことを言います。移動の過程で、左右のどちらかの足が地面に接地している場合は「歩く」動作ということになります。この歩く動作を素早く行えば「速歩」や「小走り」になり、それを極限まで速く行うのが競技としての「競歩」になります。
「走る」という動作では、カラダを前に移動するための推進力を得るため、カラダを素早く・大きく動かします。脚を動かす下半身だけでなく、連動する上半身を含めたカラダ全体を動かし、この動作を連続的に行うことにより、スピード感のある移動ができるようになります。また、地面と接地する際に、足底から大きな衝撃を受けるため、それらをカラダで吸収していきます。
こうした激しい動作では、体内にあるエネルギーとともに多くの酸素が必要になるため、呼吸を通して体内に酸素を取り込んでいきます。そのため、走っている時は呼吸の回数と吸気量が増加し、さらに血中の酸素をカラダ全体に送り出すために心拍数も増えるため、カラダにかかる負荷が大きくなります。
英語で表す「走る」ことを表す単語について
「走る」ことを示す言葉として、ランニング・ジョギング・スプリントや、マラソンという英単語がよく使われます。全てが「走る」ことを意味しますが、それぞれの言葉が表す動作の局面は異なっています。しかしながら、日本語では「走る」という一つの単語で表すため、その局面についてが曖昧になることがあります。
ランニング(Running)
「ランニング」は、英語の動詞 “Run” の現在進行形や走ることを表す名詞の “Running” からきています。“Run” の根本的な意味は、『ある方向に、連続して、(すばやくなめらかに)動く※1』ことに加え、人が『(人・動物が)走る/競走に加わる(出る)/ランニングをする※1』という行為も、この意味の中に含まれます。また『to move very quickly, by moving your legs more quickly than when you walk:歩くことよりもより早く足を動かすことで、とても早く動くこと※2』と説明されており、スピード感をもって移動する行為を意味してます。
ジョギング(Jogging)
「ジョギング」は、英語の動詞 “Jog” の現在進行形や名詞の “Jogging” からきています。“Jog” は、『ゆっくりした駆け足※3』を意味し、概念の階層を表すツリーでは、「ランニング」の下位概念とされています。馬の早足や緩慢な駆け足を意味する「トロットのランニング」の意とも解説されています。また、『to run slowly and steadily, especially as a way of exercising:特に運動として、ゆっくりと徐々に走ること※4』と説明されており、ランニングという走る動作の中でも、ゆっくり走ることを意味しています。
スプリント(sprint)
「スプリント」は、英語の “Sprint” で『(特に短距離間を)全力疾走する※5』を意味する動詞で、『to run very fast for a short distance:短距離をとても速いスピードで走る※6』を意味しています。また名詞として使う時は『全力疾走・短距離競走 ※6』の意味をもちます。陸上競技であれば 400m走までが、短距離走(スプリント競技)にあたります。また、スタートからゴールまでほぼ全力で走る 100m走と200m走を「ショートスプリント」、トラックを 1周高いスピードを維持して走る 400m走を「ロングスプリント」といいます ※7。
マラソン(Marathon)
「マラソン」は、英語の “Marathon” で、『マラソン(競走)、長距離競走、(各種の)耐久コンテスト※8』を表します。元来マラソンレースを指す場合、 “26マイル 385ヤード (42.195 km)” の距離で、公道のコースを利用したいわゆるフルマラソンのレースですが、「10キロマラソン」「ウルトラマラソン」のように、42.195kmの距離でなくても、長い距離を走る耐久走の意味としても使われます。こうした場合は、競技レースそのものを示しているため、走る時のスピードについては関係がありません。
ジョギングが広まったきっかけ
現在では広く知られている「ジョギング」という概念が広まったきっかけとして、1970年代にアメリカで起きたジョギングブームがあります。ブームを生むきっかけの 1つが、ナイキの創設者の 1人の “ビル・バウワーマン(Bill Bowerman)” が書いた 3ページの手引書『ジョガーズ・マニュアル(1963年発行)』です。このマニュアルは、健康のためのランニングを行なうジョギングクラブ「the Auckland Jogging Club」を創設したニュージーランドの陸上競技のコーチ “アーサー・リディアード(Arthur Lydiard)” のもとを、バウアーマンが訪れた時に学んだジョギングの概念を反映したものでした。さらにバウワーマンは、1966年には心臓専門医の W.E.ハリスとともに『JOGGING』と題した 90ページの本を出版しています。この本は、当時のアメリカの運動不足問題に一石を投じ 100万部以上売れ、1970年代に起きたアメリカのジョギングブームの火付け役の 1つになったとされています※9。
バウワーマンが紹介したジョギングは、ゆっくり走ることからはじめ、筋力や心肺機能などの有酸素能力を高めて健康の増進に寄与するという、男女問わず、子供から高齢の人まで、全ての年齢層の誰もが取り組めるというプログラムでした。
ジョギングとランニングの違い
言葉の意味的には、ランニングという言葉の範疇にジョギングが含まれますが、もっぱらランニングは早いスピードを、ジョギングはゆっくりとしたスピードの走行を指しています。速度の数値で線引きすることもありますが、ランナーの体力、年齢、性別、意識、目的などの要素を踏まえて、個人によりそのラインは変わります。例えば、実業団選手にとってのジョギングは、一般ランナーから見れば、とても速いランニングに見えるようなものです。
ジョギングは、先に書いたビル・バウワーマンの『ジョガーズ・マニュアル』では、“Jogging is a bit more than a walk(ジョギングは散歩以上のものです)” と書かれています※9。また、バウワーマンは『会話ができるかどうかの「トークテスト」を常に把握しながら、自分がどんなレベルの強度で走っているかを感知することは非常に大切なことなこと ※10』だとしています。ジョギングであれば、余裕をもって会話ができる程度のペースになります。このペースは運動している時感じるキツさを基準にした主観的運動強度(REP)※11の指標の 11~13(心拍数:110~130拍/分)にあたり、ランナーは “楽である” もしくは “ややきつい” という感覚になります。ジョギングを続けることを通して運動不足の改善や、有酸素運動をすることを通して、より速く、より長く走れる基礎体力が身につきます。
一方、ランニングは、ジョギングよりもスピード感がある走りということになり、カラダへの負荷が大きく呼吸が激しくなるため、会話をしながら走ることが難しくなっていきます。走力のレベルが上がってくることもあり、ランナーによっては競技志向が強くなっていきます。トレーニングは多様化し有酸素運動だけでなく、インターバルトレーニングのようなハードなものも取り入れられることがあります。
なお、ランニングとジョギングは個人により変化するとしていますが、体活動を表す指標として使われている「改訂版『身体活動のメッツ(METs)表』※12」では、時速6.4km までの項目をジョギング、1つ上の項目の 時速8.0km からをランニングとラベリングしています。
マラソンの起源
言葉の由来は『紀元前490年ギリシャ軍がアッテカ北東部のマラトン(Marathon)でペルシャ軍を破ったとき、伝令がアテネまでの約42kmを走って勝利を伝えたという故事に基づく ※8』とされます。現在の標準距離になっている 42.195kmについては、『競技距離が統一されたのは、第8回パリオリンピック以後であり、42.195 km(26マイル 385ヤード)とされた。この距離は第4回ロンドンオリンピック時の走行距離(市街地 42km + 競技場の 200mトラック 1周弱)をそのまま採用したものである。※13」とされています。
多様なスポーツで必要とされる走る動作
走ることは、野球やサッカー、テニスなど多くのスポーツをする時に必要になる動作です。また、走る距離が少ないと思われる競技でも、基礎体力や持久力を養う時には、必ずといってよいほど、トレーニングの一環としてランニングが組み込まれてきます。
アメリカのランニング誌「RUNNER’S WORLD」のウェブサイトで 2016年6月29日掲載の記事※14では、スポーツ種目ごとの 1試合あたりの走行距離を述べています。
- 野 球
- 約60m(対象:マイク・トラウト 2015年統計データより)
- バスケ
- 約4103m(対象:2016年NBAシーズン中の 1試合あたりの走行距離の上位10選手の概算値)
- テニス
- 4,828m(テニスの場合、コートの種類、セット数などの要素により走行距離が試合ごとに大きく異なる)
- サッカー
- 11,265m
競技によりフィールドの大きさや特性が違うため、走る距離は大きく異なりますが、走ることが競技のベースになっていることが分かります。ランニングを行い身体能力を高めることは、様々な競技を始めるときのハードルを下げ、取り組みやすいカラダを作ることができます。
<参考文献>
1. 「run」Eゲイト英和辞典 : 参照 2023-02-04
https://ejje.weblio.jp/content/run 2. 「run」ロングマン現代英英辞典 : 参照 2023-02-04
https://www.ldoceonline.com/jp/dictionary/run 3. 「jogging」Eゲイト英和辞典 : 参照 2023-02-04
https://ejje.weblio.jp/content/jogging 4. 「jogging」ロングマン現代英英辞典 : 参照 2023-02-04
https://www.ldoceonline.com/jp/dictionary/jogging 5. 「sprint」Eゲイト英和辞典 : 参照 2023-02-04
https://ejje.weblio.jp/content/sprint 6. 「sprint」ロングマン現代英英辞典 : 参照 2023-02-04
https://www.ldoceonline.com/jp/dictionary/jogging 7. 「短距離走」2023年2月7日 (火) 15:01 UTC - 『ウィキペディア日本語版』。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%9F%AD%E8%B7%9D%E9%9B%A2%E8%B5%B0 8. 「marathon」Eゲイト英和辞典 : 参照 2023-02-04
https://ejje.weblio.jp/content/marathon 9. 「The history of a habit: jogging as a palliative to sedentariness in 1960s America」National Library of Medicine : 参照 2023-02-04
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5897920/ 10. 「リディアードのランニングトレーニング」橋爪伸也著 P88、P89 11. 主観的運動強度 Gunnar Borg 1998 12. 国立健康・栄養研究所 改訂版 『身体活動のメッツ(METs)表』 : 参照 2023-02-08 13. 「マラソン」2023年2月1日 (水) 21:05 UTC - 『ウィキペディア日本語版』。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%83%A9%E3%82%BD%E3%83%B3 14. KIT FOX,「The Distance Run Per Game in Various Sports」Runner’s World : 参照 2023-02-04
https://www.runnersworld.com/runners-stories/a20805366/the-distance-run-per-game-in-various-sports/
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